「あ、あぁ」
曖昧に答えるその姿に、今度は瑠駆真が頬杖を付く。
「君がそこまで涼木さんを気にしているとは思わなかったよ」
「え?」
「君は、他人には無関心をモットーにしているはずだったからね」
「あ」
反論できない。そんな態度に、瑠駆真は眉を寄せた。
「こちらとしては喜ばしい事なんだけどね。無関心で無愛想な君なんて、本来の君ではないから」
「うっ」
「君を元の君に戻してみせると宣言したんだ。そうやって他人と関わるようになってくれた事には嬉しさも感じるよ。だけどね」
少し冷たく瞳を揺らす。
「そうさせたのは誰なんだ?」
「え?」
「霞流、か?」
悔しさが滲み出る。それは聡とて同じ事。
「涼木の事で昨日はゴタゴタしてて聞きそびれたけど、本来、俺たちがどうしてあそこに付いて行ったのか、忘れたワケではないよな?」
語気を強める。
「このまま曖昧に済まそうとだなんて、思うなよ」
「あの」
「こちらとしては、そもそも涼木さんの件なんて、二の次だったんだ。それよりも、君の行動に興味がある」
言うなり、身を寄せてくる。慌てて身を引こうとする美鶴の左の手首をそっと掴む。
「霞流との夜遊び。この噂について、どう説明してくれる?」
「あの、それは」
「昨夜の彼のあのふてぶてしい態度。少なくとも紳士然としていた今までの姿が演技であった事には間違いないみたいだね」
「失礼な事を言わないで」
「お前がちゃんと説明してくれないから、変な憶測したくなる」
「説明不足は誤解の素だよ」
「だから、それは、その」
「下手な言い逃れは無しだぜ。今さらそれはないよな?」
気迫を込めた表情で詰め寄る二人。
どうしよう。
追い込まれ、ゴクリと生唾を飲み込む。そんな只ならぬ雰囲気に包まれた駅舎の空気をブチ壊したのは、軽快な扉の音。
「おい、大迫っ」
飛び込んでくるなり、蔦康煕は声をあげる。
「ちょっと助けてくれよ」
本当に困り果てたような声。
「助ける?」
ワケがわからず首を傾げるが、蔦がそれに答える前に、別の声が駅舎に響いた。
「ちょっとコウ、待ちなさいよ」
入ってくるなり腰に手を当てるツバサ。
「ちゃんと説明しなさいよね。あの女の子は誰なのよ? どうして一緒にお昼ご飯なんて食べてたワケ?」
「だからそれはぁ」
困ったように頭を掻く。
「女の子?」
「お昼ご飯?」
「何それ?」
口々に疑問を投げかける面々に、ツバサは強く頷いてみせる。
「コウったら、今日のお昼に校内のカフェで女の子とランチしてたのよ。しかもすっごく楽しそうに」
「だからそれは、教科書忘れた数学の時間に運悪く当てられて、その時にこっそり教科書貸してもらったから、だからそのお礼にカフェテリアで昼飯おごっただけであって」
「そんなの、教科書なんて私に借りに来ればよかったでしょう?」
「理系と文系じゃあ、教科書違うだろっ」
「だからって、何も女の子に借りることないじゃない」
「俺の両隣は女だって事、お前だって知ってるだろう?」
「だからって、何も女の子と食事だなんて」
「別に二人っきりってワケじゃねぇよ。他に男子も居たし、あぁっ!」
コウは頭を抱えて美鶴を見る。
「大迫、助けてくれよぉ」
「た、助けてって言われても」
呆気に取られながらツバサを見上げる。
「どうしたんだ?」
「何がよ?」
憮然とした表情で美鶴を見下ろすツバサ。
「いや、その、お前らしくないなって言うか?」
何と言うか。
「何よ? 言いたい事があるならはっきり言えば? それこそ美鶴らしくもない」
「えっと、だから、そうやってあれこれと聞き出そうとするのって、お前らしくないって言うか」
ツバサってのは、もっとサバサバとした性格で、蔦が女の子と食事をしていたくらいではここまで追求するような人間ではなかったと思うのだが?
蔦の求めに応じるつもりはないが、助けるというよりも、その言動が気にはなる。
「女と二人でこっそり食事ってワケでもなかったんだろう?」
「でも、気になるでしょう?」
「そういう事は気にしないような人間になりたかったんじゃないのか?」
ツバサは顎をあげる。
「私ね、やめたの」
「やめた?」
「気になる事を気にしていないようなフリするのはやめたの。こういう気になる事は、ハッキリ聞く事にしたの」
「へ?」
目を丸くする美鶴に、ズンッと胸を張る。
「今まではね、あれこれウジウジと気にする事自体がみっともないのかなぁって思ってて、実は気になってた事でも聞けなかったじゃない?」
里奈との関係とか。
「でもね、わかったの。気になるんなら、やっぱり堂々と聞くべきだって。お兄ちゃんも言ってたしね。私は私のままでいいって」
な、なるほど。
その変貌ぶりに多少慄きながらも、ある程度は納得する。
開き直ったか? それとも悟ったか? でもなんとなく、結局はツバサっぽいかも。サバサバした女を演じているよりも、こっちの方がなんだか逆にサバサバしているというか。
気になる事はズバズバ聞く。
うん、その方がツバサっぽい。
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